「異聞・戦国録-外伝-」EPISODE・弐-2 半Be先生作

 1558年、夏のことである。上総のとある浜辺は漁師やら、近辺の村や集落の人々で溢れていた。
何かを中心に人垣が出来ているのだが、祭りなどのように騒ぐわけでもなく、むしろ不気味なくらいに静まり返っていた。そのうち、人垣の中から数人の腕っ節の強そうな漁師が棒を片手に中心に向かっていった。
中心にあるものは、ヒトのようではある。が、身体は大柄で髪は黒ではなく黄金色であった。身に着けている衣装も着物ではなく、今までに見たこともない形状のものである。唯一分かるのはその体つきから男であろうこと、それだけであった。
漁師の一人が遠目から棒で身体を小突いてみるが、反応はない。そこで今度はもう一人が頬の辺りを何度か軽く突いてみた。すると、ビクリと身体が動いた。それに反応して漁師達は数歩後ずさりする。同時に人垣も後ろに下がる。
僅かな静寂ののち、浜辺に打ち上げられた彼はゆっくりと身体を起こすと、近くに居た数人の漁師に目を向けた。漁師達は息を呑んだ。何と彼の目の色が青かったのである。更に漁師達に手を差し伸べ喋った。
「Socorro… Un…copo de agua….」
あまりの恐怖に漁師達は口を開けたまま立ち竦んでいる。男は更に続ける。
「Un copo… de agua,…por favor…,por favor….」
「………!」
なんとも不気味な男の言葉に漁師達は声も出ないままに逃げ出した。人垣が近付いてきてようやく
「化けもんじゃあ!」
「鬼じゃあ!」
などと叫んだ。それに驚いて集まってきた人々は散りじりになってにげだし、浜辺は一気に混乱の場となった。
しかし、逃げ去ってゆく人々の群れに刃向かう様に一人の男だけが立ち止まっていた。逃げ際の村人が男に言う。
「条星殿!あんたも逃げんとあの化け物に食われっぞ!!」
だが、条星と呼ばれたその男は黙って立っている。条星は本名を潟上条星といい、このあたりに居を構えている国人で、今は上総介家への忠節を誓っている。
やがて、人々が殆ど居なくなった後、条星は浜に打ち上げられた男へと進んでいった。男へ辿り着くと、条星はぼそりといった。
「世に聞く南蛮人か??」
その声に気付いたらしく、南蛮人といわれた男は条星の方を見て再び声を出した。
「Un copo de agua,por… favor….」
すると条星は自分が腰に下げていた竹筒を外し、南蛮人へ手渡した。男は初め、竹筒を不思議そうに見ていたが、中味が水であることに気付くと一気に飲み干し、条星の方を向いて、話し出した。
「O…obrigado….」
「…………。」
条星は特に返答はしなかった。しかし男はなおも続けた。
「Onde fica aqui?」
その問いにようやく条星は口を開いた。
「じゃぱぅうんん.」
何と、条星と呼ばれたは男と似た言葉を話せるのであった。
「Japao?」
「すぃん sim….」
条星は首を縦に振った。すると男はやや笑顔になって砂浜に座った状態になり話しを続けた。
「Mew nome e ヨハン,ヨハン・セバスチャン. Vim do ポrtがる.」
「ぽ、ポルトガル…!やはり南蛮人であったか!わしは条星。潟上条星じゃ。」
「………。」
「……Meu nome e jyousei.」
それを聞くと、ヨハンと名乗った南蛮人は
「Ji…jyo…じょ…う…せえ……。」
と、日本語に近い言葉で言った。これには条星も驚いた。
「なんと!お主は日本語がしゃべれるのか!!」
「SU、すこしばかり…。」
これですっかり条星は安心した。条星も僅かながらのポルトガル語は話せるのだが、それではきっとこのヨハンが伝えようとすることを理解できないと思っていたからである。
「そうかそうか。ヨハンとやら、お主、一人で立って歩けるか?」
そう言うと条星はヨハンに手を差し伸べた。ヨハンもなんとなく分かったらしく条星の手を取って立ち上がった。
しかし、ヨハンはやはり体が衰弱していたらしく、ふらついていた。
 「おぬし、やはり相当弱っておるな。わしの家でしばらく休むが良かろう。元気になったら領主の上総介おめぐ殿にでも拝謁するかのう。」
条星はヨハンにそう言いながら彼の大柄な身体を支えながら家路へとついた。
「………。」
ヨハンは半分程度しか言葉が分からなかったので、黙って条星の方を借りたまま歩いた。
『悪い人じゃ無さそうだし…。しばらく安心かな。』
そう思いながらヨハンの日本での第一歩が始まったのでる。



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