「異聞・戦国録-外伝-」EPISODE・壱-6 半Be先生作

 それからしばらく混沌とした時間が過ぎた。おめぐも既に息が上がり、敵の攻撃を受け流す事が多くなってきている。そして、しばらくぶりに自らの手によって一人の兵を斬り伏せた時である。おめぐの視界に前に馬に乗った康資が入り込んできたのである。
「康資ー!叔父の仇!!覚悟ー!!!」
「!!!!!!」
その声に驚いた康資は瞬時に馬ごと身をかわしたが、おめぐの刀は康資の左大腿部をかすめた。血が噴く。
「おのれ小娘!」
康資は苦痛の表情ではあるが、おめぐに刀を振り下ろす。
ガシッッッ!!
おめぐは、その刀を受け止めはしたが、それを跳ね返す力は残っていなかった。逆にその斬檄に押され、後ろに数歩後ずさりした。康資との間にできた隙間を直に康資勢の兵が埋める。
「くっ!もはやこれまでか。」
あたりを見渡しながら、康資はそう言うと続けて号令した。
「全軍!江戸へ退却じゃあ!」
そして、おめぐを睨み言った。
「上総介の小娘!次は皆殺しにしてくれる!」
それだけ言うと、再び退却の号令をしつつ走り去っていった。
「待て!!康資!!」
おめぐは康資を追おうとしたが、殿の兵達に行く手を阻まれ、その間に康資を見逃してしまった。

 北条軍康資勢は散り散りになり、しばらく掃討戦が続いたが、それもまもなく終結し、戦は北条方の敗北となった。上総の国を北条の手から守ったのである。康資を取り逃がした悔しさと、戦の疲労で立ち尽くすおめぐに紋次郎が駆け寄り言った。
「おめぐ殿、砦よりの出陣の号令、見事!紋次郎感服いたした。」
ハッとし、おめぐは紋次郎を見た。紋次郎は続ける。
「康資は取り逃がしたが、戦には勝ちましたぞ。」
その言葉に、おめぐは強く頷き
「エイ!エイ!」
と、勝鬨の声を上げた。
「オー!!」
と、紋次郎を筆頭に辺りの兵も応える。
「エイ!エイ!」
「オー!!!」
今度は、返答も大きくなる。
幾度か繰り返すうち、戦場にいた兵はおめぐを中心に一つになっていた。
 しばらくし、皆が蘇我砦へ向かいぞろぞろと歩いていると、二騎の騎馬武者がおめぐにむかってくる。
「おめぐ殿ー!」
その声の主は兜太郎丸であった。隣には大谷宝も居る。駆け寄ってきた太郎丸は馬から降り話した。
「おめぐ殿、いや、上総介おめぐ様。我等が主であった大厩岱輝には御舎弟、御子息無く、今後仕えるべき主を失い申した。残った我等家臣の中で主となるべき人物を決めることも出来まするが、それではまた無用な争いが起きることは必定。そこで、我等大厩家臣一同、亡き岱輝様の姪である、上総介家を主としたく思いまする。」
「………。」
おめぐはしばらく考え込んでいたが、
「分かった。これからはこの上総にも戦国の大きな嵐が来よう。そのためにも力が必要じゃ。これからは、上総介家の家臣として、私を助けてくれ。」
「はっ!」
太郎丸と宝は深く頭を下げた。すると、
「御願いでござる!」
今度は紋次郎が地面に正座をし、頭を下げる。
「上総介おめぐ殿。この木枯紋次郎と木枯党。上総介家の家臣にしていただきたい!」
それを見ていた、木枯党の重臣が言う。
「紋次郎殿!よろしいのですか!!いくら先代の遺言とはいえ…。」
「よいっ!おめぐ殿は戦中、それがしの刀を受け申した。真剣勝負でそれがしの刀を受けることが出来たものに仕える。それが我父の遺言でござる。なにとぞ!」
おめぐは、紋次郎の急な申し入れに困惑し、考え込んでいる。その間も、紋次郎は頭を下げたまま微動だにしない。やがて、おめぐは言った。
「分かった。上総介家には強力な兵がおらん。此度もその為に北条方に屈する羽目になってしまったのじゃ。これからは、上総介家の戦力として期待するぞ。」
その言葉を聞いた紋次郎は更に深く頭を下げ、
「ありがたき幸せ!」
それだけを口にした。おめぐは、
「さあ、もう立ってくだされ、紋次郎殿。」
と言った。紋次郎は素直に立ち上がったのだが、
「紋次郎殿はやめて、紋次郎と言い付けくだされ。もう、家臣でござる。お館様。」
そう言うと、砦へ向かって歩き出した。
「半兵衛殿が待っておりますぞ。」
紋次郎が指をさす蘇我砦の門前には半兵衛ともう一人、仁民慶征が立っていた。二人は、おめぐ達が来ると頭を下げて、戦勝を祝した。
「ところで、半兵衛殿、それがしは、上総介家の家臣にしていただいた。お主ははどうする?」
紋次郎は半兵衛が自分と同じ選択をすることを期待している。
「うむ。。。私は、直にでも下総に引き上げる。。。此度は数多くの兵失った。。。おめぐ殿、この蘇我砦、規模の割に守りやすく、とりあえずの本拠としては言うことないでしょう。使われたらいかがかな。それと、上総介家が下総に勢力を拡大する際は、きっと荒城田家は上総介家に味方するでしょう。。。御武運を。」
更に続ける。
「紋次郎殿、いい主君に巡り会えたな。上総介家の大名となるのを楽しみにしていますよ。」
半兵衛は、やや笑顔でそう言い、短く頭を下げるとその場を去っていった。紋次郎はおめぐに、ばつが悪そうに話す。
「半兵衛殿はああいう人物でござる。。。」
そして
「で、お主はどうする??」
紋次郎は、今度は慶征に尋ねる。今度は更に期待が篭っている。
「いいや。ワシはこれから、更なる武術の道を極めんと修行の旅に出る。申し訳ない。。。」
紋次郎はムッと来たが、
「分かった分かった。お主ももう行ってしまうのであろう?」
その声に軽く頷くと、慶征もまた、その場を去ってしまった。
「うううむ。。。どいつもこいつも。。。」
それを見て、おめぐが言う。
「まあ、致し方あるまい。それぞれ思うところもあろう。」
集まっている将を見回す。木枯紋次郎、兜太郎丸、大谷宝、源太郎、お伊那。。。
「さて、まずはこれからどうするか。じゃ。。。。」
そう話しているおめぐの顔を照らす太陽は、西に傾き、真っ赤に輝いていた。

 1556年、四月。上総介おめぐ。18才の春である。


The Saga continues...                            EPISODE・弐



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