薄鈍の天 人申先生作

天子は天子。
英傑や策士
ましてや民草にはなれやしない
朕の思う素直な心で
臣民たちを愛せはしない
蒼い空、渡る鳥よ
黄色い大地は幻か

思えば遠くへ来たもんだ
故郷やかれ 街焼かれ
臣民たちの絶え間なき
創造と叡知で築き上げたあの都

思えば遠くへ来たもんだ
西に行けば 古の風音
東にゆけば 新しき息吹
西へ行こうと東へ行こうと
朕の影は俘囚の身ひとつ

厳しき漢(おとこ)に逢いました
強き漢(おとこ)に逢いました
強き漢(おとこ)は厳しき漢(おとこ)を排除して
哀しき漢(おとこ)になりました

怖い漢(おとこ)に逢いました
けれども怖い漢(おとこ)は
導く漢(おとこ)でもありました

優しい漢(おとこ)に逢いました
優しい漢(おとこ)は好きでした
朕の叔父だと呼びました

あれから幾年過ぎました
蒼い空は消えました
導く漢(おとこ)ももういない
彼の影が導いてくれる
いや
彼の影が
朕の天を消しました

優しい漢(おとこ)は今、いずこ?
聞けば遥かな東の空で
彼の空を仰いでいると聞く
嗚呼
朕も朕の空を仰ぎたい

雲が晴れて陽が差すように
朕の大地は輝きだすのか
朕の空を仰ぐことは出来ぬのか
それも思えば儚き夢か

優しい漢(おとこ)は言いました
必ず迎えにあがります
陛下の空を差し上げますと

でも今は
導く漢(おとこ)の影が
己の空を仰いでいます
嗚呼
もう朕は天子ではないのですね
嗚呼
蒼い天はもうないのですね

優しい漢(おとこ)よ
そなたは言った
必ず迎えにあがります
陛下の空を差し上げますと

いつまで待てばいいのですか
この思い
西の風に聞き耳たてれば
西にも天が出来たと聞こえた
南にも天が出来たと聞こえた
朕の天が幕を閉じ
3つの天が幕を開けた

嗚呼
わからない
朕の天は今、いずこ?

西の風に聞き耳たてれば
朕は既にいないと聞いた
朕は影に殺された

嗚呼
わからない
何でそうなる?
朕はここで生きている

それから何年たつことか
今では女房子供持ち
山陽の地の大地主
いったい朕の人生は
何であったと振り返る

天子よ天子と崇められ
何一つ不自由な事もなく
囚われの身でありました

いつまで待てばいいのですか
この思い
必ず迎えにあがります
陛下の空を差し上げますと
儚き夢は鈍色の夢



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