黄金の剣 人申先生作

それは玄徳が見つけた。
小さい沼。
龍神が住まうと言う小さな龍の沼。
玄徳は剣を沼に向け振りかざした。
父祖の代より伝わる雌雄一対の剣。
沼の精霊よ。龍神よ。
我は誓う。
万民の為、天下を取ると。
すると如何した事か腕が振るえだし
ほとっと剣を落としてしまった。
父祖の代より伝わる雌雄一対の剣。
剣は地面に突き刺さることなく
軽く跳ねて沼の中へ。
龍神が住まうと言う小さな龍の沼へ。

沼の精霊よ。龍神よ。
玄徳は声を上げる。
私の剣を返しておくれ。
私の剣を探しておくれ。

沼の水が蒼く光りだす。
光の渦の中から白衣の老人が浮かび上がった。
わしが沼の精じゃが、お呼びかな?
玄徳はすがる様に頼み込む。
私の大事な剣が沼へ落ちてしまった。
探してはくれまいか?

沼の精は軽く微笑んで袖の中から剣を差し出した。
金色に輝く雌宮の大剣。
まばゆいばかりの黄金色。
いえいえ、それは違います。
玄徳は大きく手を振った。

そうか。ちょっと待て。
沼の精は軽く微笑んで再び沼の中へと消えていった。
ぶくぶくぶく。
心配そうに眺める玄徳。
また光の渦の中から沼の精が浮かび上がった。

沼の精は軽く微笑んで袖の中から剣を差し出した。
銀色に輝く雄坤の大剣。
まぶしいばかりの白銀色。
いえいえ、それは違います。
玄徳は大きく手を振った。

そうか。ちょっと待て。
沼の精は軽く微笑んで再度沼の中へと消えていった。
ぶくぶくぶく。
心配そうに眺める玄徳。
またまた光の渦の中から沼の精が浮かび上がった。

沼の精は軽く微笑んで袖の中から剣を差し出した。
宝飾を施した雌雄一対の剣。
みなれた赤銅色。
はいはい、それです、それです。
玄徳は静かに手を差し伸べた。

そうか。ちょっと待て。
沼の精は軽く微笑んで再度沼の中へと消えていった。
ぶくぶくぶく。
え?返してはくれないの。
と、思ったら光の渦の中から沼の精がまたまた浮かび上がった。

お前はとても正直者じゃ。
これはもちろん返しましょう。
雌雄一対の剣が沼の精から玄徳へと渡された。
お前を試してすまなかった。
お詫びにこれも進ぜよう。
ふと気がつけば玄徳の足元には
金色に輝く雌宮の大剣と銀色に輝く雄坤の大剣。
大事に使えよと微笑む沼の精。
にこりと笑って沼の中へと消えていった。

玄徳から話を聞いた。
疑い眼の義弟、雲長。
その沼へとやってきた。

雲長は青龍堰月刀を沼に向け振りかざした。
我が義兄をたぶらかす魔物か?真の精か?
沼の精霊よ。龍神よ。
我は誓う。
万民の為、義兄に従う。
すると如何した事か腕が振るえだし
ほとっと堰月刀を落としてしまった。
なぜだか持ってる青龍堰月刀。
堰月刀は地面に突き刺さることなく
軽く跳ねて沼の中へ。
龍神が住まうと言う小さな龍の沼へ。

沼の精霊よ。龍神よ。
雲長は声を上げる。
私の堰月刀を返しておくれ。
私の堰月刀を探しておくれ。

沼の水が蒼く光りだす。
光の渦の中から白衣の老人が浮かび上がった。
わしが沼の精じゃが、お呼びかな?
雲長は疑い眼で頼み込む。
私の大事な堰月刀が沼へ落ちてしまった。
探してはくれまいか?

沼の精は軽く微笑んで袖の中から剣を差し出した。
金色に輝く黄金堰月刀。
まばゆいばかりの黄金色。
いえいえ、それは違います。
雲長は大きく手を振った。

そうか。ちょっと待て。
沼の精は軽く微笑んで再び沼の中へと消えていった。
ぶくぶくぶく。
心配そうに眺める雲長。
また光の渦の中から沼の精が浮かび上がった。

沼の精は軽く微笑んで袖の中から剣を差し出した。
銀色に輝く白銀堰月刀。
まぶしいばかりの白銀色。
いえいえ、それは違います。
雲長は大きく手を振った。

そうか。ちょっと待て。
沼の精は軽く微笑んで再度沼の中へと消えていった。
ぶくぶくぶく。
心配そうに眺める玄徳。
またまた光の渦の中から沼の精が浮かび上がった。

沼の精は軽く微笑んで袖の中から剣を差し出した。
宝飾を施した青龍堰月刀。
みなれた青銅色。
はいはい、それです、それです。
雲長は静かに手を差し伸べた。

そうか。ちょっと待て。
沼の精は軽く微笑んで再度沼の中へと消えていった。
ぶくぶくぶく。
え?返してはくれないの。
と、思ったら光の渦の中から沼の精がまたまた浮かび上がった。

お前はとても正直者じゃ。
これはもちろん返しましょう。
青龍堰月刀が沼の精から玄徳へと渡された。
お前を試してすまなかった。
お詫びにこれも進ぜよう。
ふと気がつけば玄徳の足元には
金色に金龍堰月刀と銀色に輝く銀龍堰月刀。
大事に使えよと微笑む沼の精。
にこりと笑って沼の中へと消えていった。

玄徳・雲長から話を聞いた。
どきどき眼の末弟、益徳。
その沼へとやってきた。

益徳は蛇矛を沼に向け振りかざした。
我が義兄に恵みを与えたうらやましいぞ。
沼の精霊よ。龍神よ。
我は誓う。
万民の為、義兄達に従う。
流石は豪腕、益徳。
腕なぞ振るえる訳が無い。
・・・落とさなきゃならぬのか。
めんどくさいなと蛇矛を握る。
えぃ!力まかせに投げ入れた。
蛇矛はまっすぐ沼の中へ。
龍神が住まうと言う小さな龍の沼へ。

沼の精霊よ。龍神よ。
益徳は声を上げる。
私の蛇矛を返しておくれ。
私の蛇矛を探しておくれ。

いてっ!
沼の中から鈍いうめきが聞こえた。
光の渦の中が現れた。
・・・。
・・・。
・・・。
・・・。
そして静かになった。

沼の中から赤い水が浮かび上がったが
遂に沼の精は現れなかった。
・・・。
・・・。
・・・。
・・・。
蛇矛も浮かんでこなかった。

                 (終劇)



メール 人申先生にファンレターをだそう!!