「森蘭丸」第四話.蘭丸.仕官いたします 蘭香先生作

「ああ.かの蘭丸殿ぞ!」一人の女が言った。つられるようにしてまわりの人々が蘭丸を.酔ったように見つめる。
蘭丸はこの日.姉うめが病におかされたために薬を買い求めに来たのである。
視線が痛くて.蘭丸ははっと目を伏せた。兄長可に似ず.蘭丸は女衆はもちろん.男どもにも好かれるほどに美しく成長していった。珍しがられたり.みつめられたりす
るので蘭丸はあまり外には出たがらない。しかし今日はしょうがない。母妙向尼.姉うめともに病に倒れ.兄は戦場にいる。蘭丸が行かなければ誰も行く者はないのだ。
薬を買い外へでようとした.その時。

ドンッ。

入ってきた客とぶつかった。
「あ.....申し訳ござりませぬ!」驚いて落とした客の荷物を拾い.謝った。
男はむくっと起き上がる。いずこかにつかえる家臣のような服を着ていた。いずれにしろ.農民には見えない。荷物を渡そうとすると.その男はぎゅっ.と蘭丸の手を握った。
「柔らかい手じゃのう。おなごのような手じゃ。」「ひいっ.....」
小さい蘭丸は怖がって.男の顔をまじまじと見る。
その男は.サルのような顔をしていた。しわが幾重にも重なり.浅黒かった。
色が白く華奢な蘭丸とは.まったく対照的である。しかし蘭丸は.そのようなことはおくびにもださない。
いいや.怖くてそれどころではない。「あのー....う???」
蘭丸が声をかけるとようやく気づいたようで.おうおうとうなずいた。
「いやあ.すまぬすまぬ。それよりもぬし.我が主君信長様に仕える気はないか」
そう聞いてくるのだ。「は.はい......織田殿のことは存じ上げておりますれば..」
信長には恩がある。しかし.そのころ信長は残酷で義理人情もかけらもない者.と悪いうわさが立っていた。
なにしろ石山本願寺.比叡山の者達を女子供見境なく焼き討ちにしたというのだから蘭丸にはただ恐ろしかった。

---ああ.あの時逢ったあのおじさんは.そんな怖い人だったんだ。
やだなあ.兄上は.よくそんな人に仕えていられる。
そういえば.今日何人斬った.今日は何人斬ったとおっしゃっていたな...---


小さいながらに恐れたものだ。とにかく今蘭丸は.その大魔王の家来に誘われた。しかも.その大魔王に仕えぬかと。
だから.よけいに怖い。
断ったら殺される。
そう思っている。
「すみませぬ.機会をお与えくだされませ。」
しゃんとしながらそう答えた。
「おーお.そうかそうかぁ.では可能性もあるとな!よういうた.よういうた。」

こやつ.妖しい。

大魔王より今ここにいるサルのほうが怖いと思った。
とりあえずなにがなんだかわからないまま男は納得し.ううんううんとうなずきながら勝手に帰っていった。
しかし蘭丸を.さらなる恐怖がおそうこととなろうとは.誰も知らない。
「ああ.すっかり暗くなってしまった....」
少し急ぎながら道を行く。
森屋敷はもうすこし......家の前はなぜかにぎやかに人が居た。
おおかた兄が帰ってこられたのであろうとうきうきしながら家へ入る。
すると。
「ようよう.坊主よ。」
ずでん。
蘭丸はこけた。薬がばらばら落ちた。
なんとそこには.昼間のサルがいたのである。
「あ.蘭丸ー。ありがとね薬買ってきてくれたの??
でもええわよ.もう元気になったで」

ありがとねぇ☆じゃないやろうが。
そのサルは誰やの?(名古屋弁)

姉の言葉になまりで反発しながら.蘭丸は起き上がった。
「坊主.返事はお母さんにもろた。明日の巳の刻に安土へ参れ。
上様は紺が好きだで.小袖はそれにせい。じゃあな」
「は....」
「はい.ご伝令ご苦労にございます」
うめがにこにこ手を振る。蘭丸は口をあんぐり開けたまままだ。
蘭丸はマッハで追いかける。
「サル殿おおおおおー!」
「ん?なんじゃぼうず。わしは羽柴じゃ。サルと覚えよ。
いいのう.姉さんは美人で。もっとも坊主もなかなかじゃがの」
やはりそう言い残し去っていった。
どうやら蘭丸は.あの大魔王信長のもとへ.小姓として仕えなければならないらしい。

第四話.完



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