『泣くな! 五郎左』 司馬ごくたろう先生作

「今日はみな、よう集まってくれた。
 三郎殿が笑顔で大一声を挙げた。
 今日は無礼講だでよ。
 あんじょうやってちょ~。
 え?自己紹介?
 まぁええがや。
 適当にやっとりゃ~。
 それよりもなんでお前が此処におる?」
 三郎殿は目の前にすわるお市殿を一瞥した。
   (お市殿、むくれる。)

「何言うとんの!今日は私が主役よ!
 どぉぉぉ~んと上座に座るのが当たり前よ。
 兄上こそ、そこどいてよ!
 兄上がそこに座ってたら皆誰も私の前に来ないじゃないの!」

 と、お市殿が三郎殿に指を立てた。

「*****!(自粛)」
 
「な、なんだとぉ~!」
   (三郎殿、むくれる。)

「まぁまぁまぁまぁ。」
 皆が三郎殿をなだめだした。
「ここで若が騒ぎ出したら始まるものも始まらないっす。」
「落ち着きましょう。落ち着きましょう。」
「おなご共が帰ってしまいますゾ。」
 
 ・・・。
 三郎殿はしぶしぶ席を一つ空けて私、五郎左の横に座った。
 皆も銘々席に座りだした。
 私の前には少しお姉さんタイプの美しい女性。
 らっきぃ~♪
 と、突然、
「どけ!」っと声がした。
 振り向くと、何時のまにやら背後に回った三郎殿。
「どけ。」
 え?ここは私のらっきぃ~♪席なんだぞ。
 見上げると、怖い顔の三郎殿。
 は、はい。っと席を譲った。

 ま、いいか。
 おなごはひとりふたりではない。
   (でも五郎左、むくれる。)
 
 三郎殿は私に礼を言う間もなく正面のお姉さんタイプの美しい女性に声を掛けた。
 
「名は何という?」
「吉乃と申します。」
 と、頬を赤らめる。
 うむむ。
 これはモロ、三郎殿好みのおなごだ。
 向こうも満更では無い様子。
 ちくしょう。
 私は三郎殿に気が付かれない程の小さな声でつぶやいた。
 まぁいいか。仕方がない。
 
 隣の席の対面に座っているおなごも器量良しだ。
 らっきぃ~♪part2
 でも、そのおなご、こちらを視てくれない。
 そのおなごの視線を辿ると・・・。
 あっ、又左。
 又左もじぃ~っと、そのおなごを見つけている。
 ダメだ!
 二人の間に結界が出来ている。
 この間には入れない。

 まぁいいか。仕方がない。
 この席は又左に譲ろう。
   (五郎左、またむくれる。)

 また隣の席に・・・え?サル?
 又左め、ペットを連れてきているのか?
「コラ!猿!そこを退け!」
 と、追い払おうとする
 ところが、その猿の正面に座るおなごが、こともあろうに猿の頭を撫で始めた。
「きゃぁ~。かわいぃ~。」
 これを追い払うのは無粋というモノだ。
 まぁいいか。仕方がない。
 もうひとつ席を譲ることでようやく落ち着いた。 
   (五郎左、ちょっとだけむくれる。)

 三郎殿が何処ぞの誰やにか聞いた混破とかいう集まりだった。
 合混とも言うらしい。
 よくわからぬが男と女が集まって飲み食いするのだそうだ。
 よくわからぬが良いことだ。
「飯と言えば五郎左だ。」
 の一言で会場は私の家、丹羽屋敷に決まった。
 嬉しいようななんとも妙な気分になる集まりではあった。

 気が付くとお市殿の前には見知らぬ男が座っていた。

「おぉ~っ!よぅ来たのん!」
 三郎殿が椅子から立ち上がり満面の笑顔を見せた。
「皆に紹介しよう。浅井の新九郎だ。
 我が妹お市のコレじゃ!」
 三郎殿が中指を突きたてその男を紹介した。
 
 さ、さ、さ、三郎殿!立てる指が違います!!
 
 でも、お市殿は頬を染めてはにかんでいる。
 ちっ!
 そんなお市殿とは裏腹に我ら男達の視線は怒りに燃え滾っていた。
   (五郎左、相当むくれる。)

 三郎殿。
 浅井の新九郎殿。
 又左殿&猿。
 そして私、五郎左。
 吉乃殿。
 お市殿。
 まつ殿。
 ねね殿。
 自己紹介も一通りすんだところでふと気がつく。
 
 さるを含めたら5対4ではないか。
 私の相手はどうなる?
   (五郎左、心配気にむくれる。)

「帰蝶ったら、遅いわねぇ。」
 お市殿が心配そうに遠くを眺めた。

 なになに?帰蝶?
 も、もう一人来るのか?
 ら、らっきぃ~♪part3
   (五郎左、にやける。)

「あっ!来た来た。こっちよ帰蝶、遅いわよ。」
 お市殿が帰蝶殿を見つけたらしく手招きをする。
 
 び、び、美人ではないですかぁ~♪
   (五郎左、有頂天。)

 にやけた笑顔の私。
 この時、吉乃殿が気分を害した様で席をたってしまった事に気がつきませんでした。
 さぁ、さぁ、さぁ。
 と、帰蝶殿をお出迎えするべく席を立つ、じぇんとるまんな私。

「ご苦労。」
 と、背後から声。
 さ、さ、さ、三郎殿。
 三郎殿が帰蝶殿をお迎えしたような雰囲気になってしまった。

「こんにちは。帰蝶ですぅ。遅くなってごめんなさい。」
 ぺこりとお辞儀する帰蝶殿。

「よいよい。今始まったばかりじゃ。
 気にせずとも良い。」
 さすが三郎殿。紳士じゃ。

 で、でも三郎殿。
 どうして私の椅子に座るの?
 どうして帰蝶殿の前に座るの?
   (五郎左、途方にくれる。)

 その時突然、
「私、帰ります!」
 何を不満に思ったのか浅井の新九郎殿が立ち上がった。
「失礼っ!」
 と、一礼して席をたち出て行く。
「ま、待って!」
 お市殿が後を追いかける。

 し~ん。
 どうしたというのだろう?

 三郎殿は何も言わず立ち上がると、同じく部屋を出て行った。
   (五郎左、心配気。)

 しばらくすると三郎殿は戻ってきた。
 お市殿も一緒だ。
 でも、お市殿は泣いていた。
 しくしく、しくしく泣いていた。

 三郎殿はそのままお市殿を席に座らせると自分の席に・・・
 いや、私の席であったはずの自分の席に戻った。

 どうしよう?

 ここは男五郎左。
 お市殿を慰めてやらねばなりますまい。

 静かに席を立ち、お市殿の正面の椅子に向かった。

 ん?さると目が合った。

 ばぁ~ん!
 と、勢いよくドアが開く。

「がはははははは!」
 大きな笑い声。
 権六殿だ。

「いやぁ~!若!ここにおられましたかぁ。
 探しましたぞ。」

 なんで権六殿が来るのか?
 権六殿は呼んでいないはず。

「勘十郎殿の事でお話がありましてな。がはは!
 それにしても、いいですなぁ~若いもんは。がはは!
 噂に聞く合混ですかぁ?」

 そうそう、若者の合混ですぞ、権六殿。
 年寄りの出る幕ではないですぞ。
   (五郎左、危険を感じる。)

「おや?お市殿。どうなされました?」

 しまった!
 権六殿がお市殿に気がついた。
 あ、だめ!
 席に座っちゃだめ~っ!

 あ゛~っ!
 座っちまった。。。
   (五郎左、撃沈。)

 こんなんばっかりだ、私の役どころ。
 イテテテテ・・・。
 腹が痛い。

 オ、オチが無い・・・。
 ま、いいか。
   (五郎左、ま、いいか。)
                             (完)




メール 司馬ごくたろう先生にファンレターをだそう!!