「戦国の時代へ・・・」第15話 湘南B作先生作

車が霧に迷い崖から転落するという、きっかけにより現代から永録元年(1558年)織田信長が今川義元を破る、桶狭間の戦いの2年前の世界へタイプスリップしてしまった中嶋太郎達一行(本間利和、沖芳子、望月美貴)、藤吉郎(のちの豊臣秀吉)は、偶然か何かの導きか織田信長と会うことができ、中嶋太郎、本間利和、沖芳子、望月美貴の4人は客人として、藤吉郎は草履とりとして信長に召し抱えられることになった。
織田信長は天下布武を旗印に天下統一に向け動き出した。

信長は上洛、畿内平定戦と順調に勝ちつづけていたが、朝倉攻めの際、浅井の裏切りにより、窮地に立たされた。
しんがりを秀吉、家康に任せ、信長は一路京に向け撤退した。
私と利和は信長の指示どおり、信長の軍とは行動をともにせずに、京を経由せず直接岐阜への道を帰ることにした。
「チュウリン、信ちゃんも強引だよね。
いきなり、岐阜に直接帰れなんていわれたって、道なんか分かるわけないじゃん。」
「信長様は浅井、朝倉の追撃の中一緒に逃げるより別行動取った方が安全だと思ったんだろう。
俺なんかは武士というより商人の格好をしているからね。
落ち武者狩りにもかからないだろう。」
「でも、現代じゃないんだよ。
盗賊とかでたらどうするの?」
「盗まれるようなもの何も持っていないでしょう。
それに今ごろ信長様は俺なんかよりもっと苦労しているよ。
それよりもっと苦労しているのがさるだけど。
俺なんかも岐阜目指して進もう。」
「おお、ここにいたか?」
後ろから声がした。
「あっ、パパ。」
利和が叫んだ。
「パパ、信長様についていなくていいのですか?」
私は心配になって聞いた。
「信長様は無事に囲いを突破した。
信長様も中島殿と本間殿を気にしておられたわ。」
可成の答えから信長は無事のようだった。
「なんか、私たち足を引っ張っているようですね。」
私が言うと、
「何を言う。
そなた達が小豆袋届けてくれたおかげでわが軍が窮地を脱したのだ。」
と可成が答えた。
私たちは可成が来てくれたことにより、かなり安心し岐阜に向った。
山中の獣道とも思えるところを可成の案内で進んでいくと、開けた平野に出た。
「ここが、関ケ原というところだ。
ここまでくれば、安心だ。」
可成は言った。
「関ケ原・・・。」
ここはまさにこれより何十年もあとになるが天下分け目の戦いが繰り広げられる関ケ原であった。
「わしはこれより、京に戻る。
あとは一本道だし、上洛するときにいつも通っている道、迷うこともなかろう。」
そう言い、可成は京に戻っていった。
私と利和は2人になり、これから先繰り広げられるだろう関ケ原の戦いの話をしながら、関ケ原を抜け大垣を経由し、無事に岐阜に戻った。
岐阜に戻ると、美貴の洋服屋で美貴と芳子が首を長くして待っていた。
「信長様は歴史上無事なの分かっているから、心配しないけど。
中嶋君や本間君は歴史とは関係ないから無事かどうか心配なんだから。」
美貴は言った。
「ほんまや。
あまり戦に首を出さない方がいいと思うわ。」
芳子も言った。
確かに、私たちはこの戦国時代、年を取らないといってもいつ死んでもおかしくないんだなと実感した。
私たちが帰った数日後には信長も岐阜に戻ってきた。
信長の浅井、朝倉に対する怒りはすさまじく、私たちでさえ利和でさえ信長のそばに寄れないような状態が続いた。
その1ヵ月後には軍備を整えた家康が岐阜に戻ってきた。
その家康の軍とともに信長は軍をまとめ近江へ出撃して行った。
私たちは今回は戦に同行せず岐阜で待っていた。
織田、徳川連合軍は浅井、朝倉の連合軍を姉川で破り、岐阜に凱旋してきた。 私たちが戦勝祝いに城へ行くと、姉川の合戦前の信長とは違い元のように私たちに対して接してくれた。
しかし、姉川の快勝に喜ぶようではなかった。
市のことや長政のこと、諸国に対して信長打倒の書状を送りつづける将軍義昭、信長にとって上手くいかないことがどんどん増えてき、どんどん追い込まれていくのが分かった。
信長は今後さらに窮地に立たされてくるのだった。

そんな折、可成が美貴の洋服屋を訪れた。
いままで幾度となく可成に助けられた私たちであったが、洋服屋に可成がやってきたのは初めてだった。
「殿より、近江の国の城代をおおせつかってな。
明日の朝には出発するんだが、出発前にそなたたちの顔を見たくなった。」
可成はそういった。
私たちは、駿河の駿府城で始めて可成にあった時から、清洲での洋服屋開業の時のいざこざ、桶狭間の時、墨俣で斎藤の軍に襲われた時、そして最近では金ケ崎からの撤退の時、すべて助けられた思い出だが、思い出話に花が咲いて、気が付いたら夜明けになっていた。
「おう、もう夜明けか出発せねばならんの。」
可成はそう言い、洋服屋を出ようとした。
「パパ、出発前に徹夜させてしまって。」
美貴が言った。
「なに、拙者が好んでやってきたまで、出発前に楽しい時を過ごさせてもらった。」
可成はそういうと、私たちが洋服屋の前で見送る中、朝靄の中に消えていった。
「パパに会うのこれが最後やったかも知れんな。」
可成を見送った後、洋服屋の中に入った芳子はポツリとつぶやいた。
「芳子お姉さま。
それ、どういうこと。」
利和がびっくりして聞いた。
私は現代の歴史の本を見せた。
その本には浅井、朝倉の軍と戦い近江坂本で戦死と書いてあった。
「信ちゃんに頼んで援軍を送ってもらうとかで何とか助けられないかな?」
利和は言った。
「信長様には歴史について語るなと言われているでしょう。」
私が言った。
「それにいくらなんでも、この歴史を変えることは私たちには出来ないよ。
しちゃいけないことだよ。」
美貴も言った。
「やでゅうー(やだ)。
それじゃあ、みんなはパパが死ぬのをこのまま指を加えてみていろってこと。
あんなに何回もオラ達助けてくれたパパだよ。」
利和は断固として引こうとしなかった。
「確かに助けたい気持ちはあるけど・・・。
今、歴史をいじると別の意味でもまずいやろ。」
芳子が言った。
「別の意味?」
利和が聞いた。
「これから先、信長様は浅井、朝倉、そして上杉、北条、一向一揆、最後には武田まで出てきて最大の窮地に陥るんや。
歴史上、これはぎりぎりのところで上手く乗り切れるんだけど、もしここで歴史の歯車を私たちが狂わしてしもうたら、信長様自体が危ない。
織田家だって滅亡するやもしれんわ。」
芳子が説得した。
確かに芳子の言うとおりだった。
ここで歴史の歯車を狂わしたら何が起こるか分からないと私も感じた。
「信長様だって、まだ先だけど本能寺の変で亡くなるのよ。」
美貴が言った。
「ここで、パパを死なして、信長様もそのまま死なして、オラなんかはみんな分かっているのに何もしないでそのまま見ていて・・・。
オラなんかこの時代に何のためにいるの?」
利和の言葉はは最後には言葉にならなかった。
「本能寺の変の時は考える。
まだ、何年も先だから。
でも、パパは俺なんかでは分かっているとはいえどうにもできないよ。」
私も言った。
利和もその日一日3人がかりで説得し、何とか納得したように見えた。
しかし、翌朝利和の姿は見えなくなった。
城などを含め岐阜の町中捜したが、そのまますがたを消してしまった。



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