「戦国の時代へ・・・」第5話 湘南B作先生作

車が霧に迷い崖から転落するという、きっかけにより現代から永録元年(1558年)織田信長が今川義元を破る、桶狭間の戦いの2年前の世界へタイプスリップしてしまった中嶋太郎達一行(本間利和、沖芳子、望月美貴)、藤吉郎(のちの豊臣秀吉)は、偶然か何かの導きか織田信長と会うことができ、犬千代(のちの前田利家)に案内され清洲城下にやってきた。

「ここが、清洲の城下じゃ。」
犬千代が言った。
「駿府や小田原に比べたら、今ひとつじゃな。
じゃが、わしが家臣になったからにはこの清洲を天下一の町にするぞ。」
藤吉郎は信長の家臣になったつもりになり、意欲的になっていた。
「城下の案内はあとまわしじゃ。
とりあえず、城内の馬小屋に行こう。
殿が待ちわびているじゃろうて。」
私達は、犬千代に案内されるまま城内の馬小屋へ向かった。
「殿は、先ほどまでお待ちしておりましたが、待ちきれなくなり本丸に入られました。」
馬番の言葉だった。
犬千代の顔が曇った。
信長は気が短い部分があるので気分を損ねていないか心配になった。
そんなことを考えていないない本間は、
「早く本丸に行って、信ちゃんにご挨拶しよう。」と言い、本丸に登りたがった。
私も早く本丸に登りたい気持ちは一緒だった。
それは、私にとって現代にいたときから戦国時代の城の本丸に登りたいという夢があったからだ。
「それじゃあ、本丸行こうか。」
私も言った。
「ちょっと、待って。」
沖が止めた。
「馬を見に来て、馬も見ずに信長さまのところに行っても仕方ないやろ。」と続けて言った。
当然、信長の性格を良く理解している犬千代も沖の意見に賛成だった。
馬を見ずに信長の前に行っても怒りを買うだけだと分かっていた。
私達は馬番に頼んで馬を見せてもらった。
そして、信長の待つ本丸へ向かった。
私にとって初めての城の本丸は現代にあるような奇麗な城でも立派な城でもなかったが、新しい木の香(信長が元の居城那古屋城から清洲城に移ったとき改築したとき香だろう)と切りつめた空気・・・。
これが本当の城なんだというのを感じられる、戦国の城に来たと実感できる場所だった。
私達は、犬千代に案内されて信長の待つ部屋に通された。
私達が部屋に入ると犬千代は席を外した。
「どうじゃった。清洲の馬は。」
信長が口を開いた。
私達が心配していたような待ちくたびれて機嫌が悪い信長ではなく、機嫌がよさそうな顔だった。
馬もろくに見ずに信長の前に出てこなくて良かった。
もし、これから馬を見せていただきますとでも言ったらカミナリが落ちていたかもしれないと私は思った。
「いやあ、すばらしい馬でした。
あの馬ならばどこの国の馬にも負けません。」と藤吉郎が答えた。
「さるなんかに聞いてはおらぬわ。」と信長は多少声を荒げて言った。
「そこの女子(おなご)どうだった。」
信長は沖を扇子で指した。
「私はこの時代に来てから、小田原、駿府の馬しか見ていませんが、清洲の馬は小田原の馬には劣っていると思います。
しかし、育ち方によっては小田原の馬に負けないぐらいの馬になると思います。」
「そなたたちは、未来から来たんだったな。
その辺の話しも聞いてみたい。
もっとちこうよれ。」と信長は私達を近くへ呼び寄せた。
私達は、数歩信長に近づこうと思ったが、本間は信長の隣まで近づいて行った。
望月が手で止めようとしたが間にあわなかった。
「まあ、よいよい。」と信長は笑って言った。
「未来から来たってことは信長の人生も分かっているのか。」
「おら、信ちゃんの人生知っているよ。」と本間が答えた。
「未来の暮らしの話しなどは色々興味があるから追って色々教えて欲しい。
しかし、この信長の人生については絶対に口にするな。
口にしたときはその首と銅がつながっていないと思え。
分かっている人生を進んでも面白くないわ。」
「でも、おらなんかが教えてあげたら楽に戦いに勝てるかもよ。」と本間が言った。
「遠回りしても、しくじってでも信長の人生50年は自分で決めるわ。」と信長は厳しく言った。
「信長様、そんなことより、なぜ私達が未来から来たって分かったのですが?」
「駿府にいた忍びから、未来から来たという変わった人達が尾張に向かっていると報告が入っていたからな。まあ、今日のところは未来の話しはいい。それより、そこの女子は育て方によっては小田原の馬に負けないくらいの馬になると申したな。清洲の馬を育ては見ぬか?」
「私の夢は世界一の牝馬を育てることですから、喜んで引き受けます。」
沖は答えた。
「世界一の馬?
世界一と言うのは唐天竺も含めてか?」と信長が聞きました。
「唐、天竺どころかそれよりもさらに先も含んだところです。」
沖は答えた。
「よし、夢をかなえてやろう。
清洲の馬を好きに育ててみろ。
あとの未来から来たものも、わしの領内でなにかやりたいことがあれば好きにしていいぞ。
客人扱いで召しかかえる。」
「わしは清洲を世界一の町にする。」
藤吉郎は言った。
「信ちゃん、さっき藤吉郎は清洲の町を天下一の町にするって言ってたのに話しが大きくなっているよ。」と本間が信長に言った。
「こら、本間。
余計なことを言うな。」と藤吉郎が止めた。
「さる。調子のいいやつだな。
清洲を世界一の町にするか。
わしは清洲を世界一の町にしようとは思ってはおらね。
どんどん領土を広げて、その度に良い土地を見つけてどんどん良い町を築いていくぞ。」と信長は言い、藤吉郎が何も言えずに黙っていると、
「さるは、草履取りとして召しかかえることにする。
久しぶりに楽しい時間をすごせた。」と言い残し、部屋を退室していった。
信長は、父に頼りの守り役平手正秀、義理の父斎藤道三、弟の信行と次々と亡くし心に穴が空いたところに私達を見ていて、また気さくに話せる相手をみつけ久しぶりに気が晴れたようだった。
「そちたちが客人で、わしが草履とりか。
まあよいわ。
客人はいつまでも客人だが、草履とりは出世して大名になるかもしれん。」と藤吉郎は自分で言い、自分で納得していた。

そうして私達の清洲での生活が始まった。



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