「戦国の時代へ・・・」第8話 湘南B作先生作

車が霧に迷い崖から転落するという、きっかけにより現代から永録元年(1558年)織田信長が今川義元を破る、桶狭間の戦いの2年前の世界へタイプスリップしてしまった中嶋太郎達一行(本間利和、沖芳子、望月美貴)、藤吉郎(のちの豊臣秀吉)は、偶然か何かの導きか織田信長と会うことができ、中嶋太郎、本間利和、沖芳子、望月美貴の4人は客人として、藤吉郎は草履とりとして信長に召し抱えられることになった。

永録3年(1561年)織田信長の名を天下に示す戦い「桶狭間の戦い」が今川義元の首を討ち取るという織田軍の大勝利で幕を閉じた。

桶狭間の戦いを見学に行った私と本間は可成とともに、信長よりも一足早く清洲に戻った。
清洲に戻ると、城下の人たちが私達の回りに群がり戦いの様子を次から次へと聞かれた。
当然城下の人たちには、戦いの結果は気になっただろう。
というよりも負けて当然、勝って奇跡の戦いだったのだ。
負けたにせよ、自分達の身の振り方は考えなくてはならないのだった。
織田軍の大勝利が清洲にはまだ伝わっていなかったようだった。
可成は戦いの結果「織田軍の大勝利」を城下の人に伝えた。
その結果を聞いた城下の人たちは歓喜の声を上げた。
一方、信じられないと思う面持ちの人もいくらかはいた。
城下ではお祭り騒ぎになりつつあった。

私達はその場を可成に任せ城に戻った。
「ご苦労様でした。
戦の様子はどうでした?」
城に戻ると、美貴と芳子が出迎えてくれた。
「遠くから、見てるつもりのはずが、今川の兵に捕らえられてたいへんだったんだよ。」と本間が説明し、
「また、パパに助けられちゃった。」と私も付け加えた。
美貴と芳子は桶狭間の勝利は当然分かっていたが、歴史に関係ない私と本間については無事が保証されていなかったので、心配していたようだった。

しかし、清洲のお祭り騒ぎも長くは続かなかった。
織田軍の凱旋は凱旋と呼べるような立派なものではなかった。
信長は無事であったが、負傷者の山で負け戦のようだった、城下はお祭り騒ぎから一転、家族のものの安否を確かめる人負傷者の手当てをする人で大混乱となった。

もし、義元の嫡男に氏真が弔い合戦を仕掛けていたら、清洲は?と思わずにはいられなかった。
さすがの信長でも持たなかったかもしれない。

私達も城でのんびりしていられる状態ではなかった。
「私、店開けるから、店で負傷者の救護しましょう。」
美貴が言い、私達は大混乱の城下をすりぬけ走り抜け城下の美貴の洋服屋に向かった。

私達が慣れない手つきで負傷者の救護をしていると、美貴の洋服屋の近くに住んでいる、1人の娘が店に入ってきた。
「私の家族は無事だったので、手伝わしてください。」
その娘はそういい、私達の手伝いをし始めた。
現代でも負傷者の手当てなどしたことない私達は、しっかりしていて手際よく手当てをする彼女に助けられ、またそのうちに彼女の指示で負傷者の手当てをするようになった。
「チュウリン、あの女の人っ知っている?」
本間は私を娘の目の届かないところに連れて行きささやいた。
「知らないけど。」
私が答えると、
「もう、チュウリンはこれだから。
あの人は清洲一の美人って有名なんだよ。
ねねっていうんだよ。」
「本間、よくそんなこと知っているね。」
「オラは清洲の噂はみんな知っているの。
ついでにいうと、信ちゃんの妹の市に、信ちゃんの正室の濃、犬(犬千代のちの前田利家)の正室の松も美人という噂だけどね。
あと、生駒の娘と言う人も美人だっていうけどオラは見たことないんだ。」
「ああ、そうそうこの前見かけた信ちゃんの追っかけしていたのおめぐもかわいかったよ。」と本間は付け加えた。
「生駒の娘って見た事ないって、お市様や濃姫様にはあったことあるの?」
「あたりまえじゃん、ちゃんと見に行っているよ。」
「本間、情報屋ができるかもね。」
「俺も、お市様や濃姫様に会ってみたいと思っているのに会ったことないのに。」
声には出さなかったが、私はこの時始めて犬千代が結婚しているって事を知った。
歴史上将来的には結婚すると思っていたが・・・。
現代にいたときもそうだったが、本間の情報力の強さにも驚いた。
そういえば、俺の全然知らない町の人と仲良くしている光景もよく見かけていた。
「中嶋君に、本間。
何しているんや。」
沖の声がした。
私と本間は慌てて仕事に戻った。

その時、藤吉郎が飛び込んで来た。
「犬千代殿が大変じゃ。」
藤吉郎は負傷している犬千代を背負っていた。
というより引きずっていた。
「消毒しなきゃ。」と言い、ねねは傷口を洗い流すとともに酒で消毒した。
「熱があるわね。」
ねねは心配そうな顔をした。
「望月さん、熱さましとか持っていなかったけ。」
私は望月に聞いた。
望月は、自分の荷物の中から、現代の熱さましを出してきて、犬千代に飲ませた。
沖も自分の荷物から現代の傷薬を出してきて、犬千代の手当てをした。

現代の薬が聞いたのか、次の日には熱さましが聞いたのか犬千代の様態は山を越えた。
また、別の負傷者も落ち着き軽症の者は家に帰って行った。
そのため、忙しかった昨日とは別に今日は落ち着いていた。

「チュウリン、昨日からさるがねねにべったりだと思わない。」
本間はまた私にささやいた。
藤吉郎は昨日犬千代を運んで来た後、そのままねねとともに私達を手伝っていた。
それも、犬千代の付き添いというより、ねねのそばにいた。
「絶対にさるはねねにぞっこんだよ。
でも、さるじゃあ、ねねにふられるのが落ちだな。」
と本間は言った。
「ふられるわけないやろ。」とたまたま私達の話しを聞きつけた沖が口を挟んだ。
「それって、沖御姉様の女の感?」
本間が聞いた。
「そんなことは俺でも分かるよ。」と私も言った。
「藤吉郎さんとねねさんは結婚することになるのよ。」と望月も言い、本間も納得したようだった。
「それより、犬千代さんって今浪々の身なんでしょう。
けががしていることだし、なんとか私達で信長様に許してもらえるように頼めないのかな?」
犬千代は少し前に信長の勘気を被り、浪々の身だった。
「療養する家もないしな。」
と私も言い、なんとか助けてあげたい気はしたが下手に口出しすれば、人に指図されるのが嫌いな信長の性格からしてさらに勘気を被ることも考えられるのだ。
私達4人が思案していると、藤吉郎とねねが妙に慌てていた。

様子を見に行くと、
「望月殿、洋服屋をあきらめて怪我の治療をするところでも作ったのか?」
入ってきたのは信長だった。
藤吉郎とねねは当然の信長の訪問に焦っていた。
しかし、私達4人にとっては信長の訪問などめづらしいことでは無かった。
「洋服屋はあきらめていません。
いまは一時的に負傷者の手当てをしていますが、必ず洋服屋を作ってみせます。」
と望月ははっきりと答えた。

私はちょうどいい機会だと思い、犬千代の事を信長に頼もうと口を開こうとすると、
「犬千代のことか?
織田家の命運を分けた戦いに参陣し負傷したものを屋敷もあたえずにほっとくわけには行かないだろう。
それに、ここにいては望月殿の洋服屋のさまたげにもなろう。」
と言い、犬千代の帰参を許してくれた。
私達はひれ伏しお礼を言った。

「それより、さる。
おぬしの隣の娘はそちの嫁御か?」
信長は聞いた。
「い、いえ・・・。」と藤吉郎が言うと、信長は高笑いして去って行った。

これが、ねねにとって信長、藤吉郎との初めての出会いだった。



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