三國志VII 奮闘記 8

 

馬騰軍と激戦の末、漢中を攻め取った哲坊軍。
しかし、都・長安をめぐり、曹操、孫策も加えての
争奪戦が始まろうとしていた。


 
212年-9月

わが軍は先月、梓潼と漢中より兵を挙げ、武都を挟撃し、
これを攻め取った。
武都は、都・長安攻めへの重要な足がかりとなるだろう。
しかし、馬騰軍もこのまま黙ってはいまい。
ある日、は、重臣達を集め、今後の評議を行った。

「攻撃は最大の防御なり。まどろっこしいことはやめて、
 五丈原を一気に突破し、都を目指しましょうぞ!! 」
口火を切ったのは於我(おが)だった。
漢中、武都を制した今、わが軍は一気に五丈原を経て長安を目指すか、
祁山を経て天水を目指すかの選択をしなくてはならないのであった。
「そうすると四方を敵に囲まれまするな…されど…」
紋次郎(もんじろう)が続く。
「それは望むところじゃ。戦が増えれば、わしの出番も増える…」
紋次郎は嬉しそうに一人でつぶやいている。
私は、上総介(かずさのすけ)諸葛靖(しょかつせい)を見た。
今回は、2人とも慎重に軍議を見守っている様子だ。
そこへ、法正が立ち上がって口を開いた。
法正は、先ごろわが軍に加わった賢人
(知力94)であり、
私は彼を新たな軍師とし、さまざまな助言を頼んでいる。
「まず武都から天水を攻め取り、さらに安定へと進軍し、
 長安を孤立させるが無難かと存ずるが…」
軍師の言葉は理にかなっており、これには主戦派も
一瞬沈黙せざるを得なくなったようだ。
「そうですな…」
幽壱(ゆうわん)が肯いた。
「孫策と同盟していれば長安を狙うのも悪くないですが、
 今やわが軍と孫策軍は一触即発の状況でござる。
 わが軍が長安を落としたと知れば、孫策のみならず、
 東の曹操も黙ってはおりますまい…」
幽壱は、戦場での働きは今ひとつながら、主に内政面で
活躍している貴重な男である。
彼の言うとおり、孫策軍とは以前、盟約を結んでいたこともあったが、
数年前に国境を巡って小競り合いがあって以来、
関係は悪化していた。

「軍議に文官が口を出すな!」
於我が幽壱を睨み付ける。
しかし、幽壱はいささかも動じず、
「ふふ、於我殿。大勢を決するのは知ですぞ」
冷静に言い返した。
「まあまあ、お2人とも…」
諸葛靖が「うふふ」と笑いながら、ようやく口を開いた。
「哲坊義兄はまだ若くてお元気ゆえ、
 長期戦覚悟で祁山から向かうのが確実かと存じます」

「はっはっは。私ももう39だぞ。長期戦は疲れる。
 …そういえば、皆もすっかり年をとったな」
私が答えると、皆はどっと笑った。
旗揚げ以来の面々を見回すと、確かに顔には皺が刻まれ、
髪には白いものが混ざっている者もいる。
「確かに、今後は若い力も必要となってくるでしょうな」
笑いがやむと、太郎丸(たろうまる)が言った。
「曹操軍や劉備軍は人材の宝庫ゆえ、領国中の兵を
 前線に集中し、早期に将を捕らえて我軍に迎えるがよろしいかと。
 その為にはまず、長安を落とさねば!」
紋次郎が珍しく理路整然と続けた。
すると、今まで黙っていた
紺碧空(こんぺきくう)が立ち上がった。
「殿、軍勢を2手にわけてはどうでしょう。
 主力部隊は長安へ、もう一手は天水へ向かわせるのです」
「なるほど…」
「しかし、半分の兵力で長安が落とせるでしょうか?」
餡梨(あんり)が思案顔で問い掛けた。
先ごろわが軍に仕えたばかりの、
董和の子・董允
(とういん)もそれに同調した。
兵力的には、こちらは馬騰軍の2倍。とはいえ、
北方に兵を裂けば、孫策に背後を衝かれる懸念もある。
しかし、私の腹は決まった。
「紺碧空の言やよし。わが軍は2手に分かれて北伐を開始する!」
軍議は決した。

すなわち、攻め取ったばかりの武都からは、
上総介を大将に、軍師に楊修、
以下、紋次郎、太郎丸、甘寧、厳顔が天水を攻め、
漢中からは私、軍師・法正、諸葛靖、紺碧空、
幽壱、
許西夏(きょせいか、於我、餡梨、兀突骨、董允
といった面々で長安を目指すことにした。


213年-1月

年が明けた。
わが軍は北伐の軍備を進めていた。
ところへ、餡梨が1人の青年を連れて、私の元へ来た。
「ん?その者は…?」
私が尋ねると、
鳳凰(ほうおう)と申します。」
青年は自ら名乗った。
美しい顔立ちだった。年はまだ20才に満たないだろう。
「もしや、そちの…?」
「はい。私の子でございます。
 昔、私が麺売りや人形の商いをしていた頃、
 奴隷商人に売られていたところを引き取った子なのです。
 私は長安でこの子を、わが子同然に育てていたのですが
 戦乱に巻き込まれ、生き別れてしまったのです」
餡梨は、目を潤ませて語った。
「私は、母と別れた後、長安に戻り、ひそかに
 絹や宝石を商い、宮廷にも出入りしておりました。
 母の消息を心配していたところ、数年前に
 哲坊様に仕えたと知り、すぐに馳せ参じるつもりでおりました。
 しかし、馬騰、曹操の抗争激化により、
 都を抜け出すのは、至難でございました。
 でも、哲坊様の軍が、漢中まで来られたと知り、
 仲間の行商人たちともに発ち、今日ここまで辿りついたのです」
鳳凰もまた、涙していた。
私は、母子の苦労を思い、ねぎらいの言葉をかけた。
その夜は、餡梨親子のために酒宴を催した。

「都の様子はどうじゃ?」
酒席で、私は鳳凰に尋ねた。
城内には、鳳凰らが持ってきた宝石や装飾品類が飾られ、
いつにも増して、派手で盛大な酒宴となっているようだった。
「馬騰は当初、漢室の復興を掲げて長安を治めておりました。
 しかし、最近は馬騰も戦に追われ、政はおろそかになって
 いるようです。度重なる出兵に、民の心は離れております。
 馬騰が先ごろ、丞相に就任できたのも、張松らが天子を
 半ば脅してだと、専らの噂です」
「そうか…どこもあまりうまくいっていないようだのう」
確かに、わが国も度重なる戦で、財源も満足とはいえない。
そこへ……。

「殿……」
紺碧空が沈痛な面持ちで、宴席に現れた。
「どうした?」
「…司馬徽殿が、亡くなられたそうです」
「……水鏡先生が…」
司馬徽は、その昔、私が独立する以前から世話になった男である。
ここ数年は、江陵の太守として荊州を任せていたため、
しばらく会っていなかったのだが…。
翌日、私はささやかな葬儀を挙げ、領内を喪に服させた。
南方は引き続き、襄陽の呂蒙、江陵の劉巴、
南海の
加礼王(かれいおう)らに任せ、防備につとめさせた。
南で孫策の水軍と事を起こすのは得策でない。

春になった。

わが軍は14万の兵を動員し、ついに長安へ向けて出兵した。
地形に詳しい鳳凰を先頭に、続々と進撃を開始する。
道中、いち早く、武都を出撃した上総介軍が、
天水を攻め落とした、との情報が入った。
「天水を守っていた
伏姫、楊松らは西平へと退き、わが軍は
 紋次郎、甘寧らを先頭に、さらに追撃中とのこと!」
上総介軍の物見が伝えた。

長安へ向かうわが軍を、馬騰軍は五丈原で待ち受けていた。
馬騰以下、軍師・張松、徐晃、黄権、びーさるの正規軍に、
馬超、馬岱の援軍合わせて10万の軍勢である。
わが軍は兀突骨、許西夏、紺碧空が左翼から、
於我、幽壱、餡梨、董允が右翼から馬騰軍を包み込む。
私は、ひたすら本陣で報告を待った。
物見の報告は、優勢、苦戦と刻々と変化していた。
「えーい。ここに居ては分からんわ!」
私は、諸葛靖に本陣を預け、法正とともに前進した。

戦況は五分五分といったところのようだ。
そんな中、兀突骨、董允の側面攻撃が奏効し、
次第に優勢に立ったようだ。
ところが、兀突骨が深入りしすぎて、まんまと張松の策にはまり、
馬騰の兵に捕まってしまった。
そして、敵将・徐晃の鬼神のごとき暴れぶりに、
わが軍は当たる者なく、紺碧空、許西夏が追い詰められ、
撤退の憂き目を見た。
それを救ったのが、軍師・法正である。
法正は、馬騰軍の背後を衝くと見せかけて徐晃をひきつけ、
その間に他の部隊で馬騰本陣を包囲する戦術をとった。
入れかわり立ちかわり攻め立てるわが軍の猛攻に、
馬騰はたまらず逃亡。これを追撃して蹴散らし、
ついに長安を奪取した。

しかし、城へ入ってみると、
敵将らは献帝(劉協)を連れて弘農へと逃れてしまった、
との報せであった。
「一歩、遅かったな」
私は、捕らえた馬忠を斬り捨てると、
長安の守りを固めるように命じた。
東の曹操や、弘農へ逃れた馬騰は虎視眈々と
この長安を狙っているであろう。

果たせるかな、その翌月、曹操軍が押し寄せてきた。
わが軍はこれを潼関にて迎え撃った。

曹操軍の大将は、曹操の息子・曹彰(そうしょう)という猛将。
以下参謀の曹植、ホウ徳、
新荘(しんじょう)香香(しゃんしゃん)
何晏、楊儀、曹仁ら9万の軍勢であった。
兵力的にはほぼ互角。ただ、地の利はわが方にある。
滅多なことでは負けはすまい。

わが軍は、関を利用して、各個撃破してゆくことにした。
敵将のホウ徳、曹仁はさすが、国中にその名を轟かせる名将、
わが軍に包囲されつつも懸命に奮戦を続けていた。
わが軍も、関を落とされてはならぬと、積極的に討って出た。
かくして、乱戦となった。
やがて、董允の部隊が曹仁に崩されて撤退、
こちらも、於我が何晏に一騎討ちを挑み、これを討ち負かし、
また、紺碧空が楊儀を捕らえた。
私は、図らずも新荘の部隊と交戦していた。
敵将の新荘は、舌鋒鋭いと評判の文人であると聞いた。
私は、前に進み出て呼ばわった。
「哲坊ここにあり!!」

「殿!大将が軽々しく出てはなりません!」
法正に止められた。
と、新荘は乱戦の中で私を見つけたらしく、
こちらに馬を向けてくる。すぐさま、それを狙って
わが隊の兵士が向かっていく。
当然、新荘の兵も必死に防戦する。
その向こうで、新荘が何事か叫んでいた。
しかし、打ち物の音や喚声にかき消されてよく聞こえない。

ふと見ると、その敵軍の中に、真紅の鎧兜に身を固め、
背中に見事な長剣を背負い、槍を振るっている若武者が目についた。
その槍さばきの見事さは尋常でなく、若武者の前に
立った雑兵はことごとく餌食となっていく。
草木をなぎ倒すがごとく次々と味方が倒される様を見て、
周囲の兵らは戦慄し、こちらに逃げてくる。
若武者は、槍を振るいつつも、こちらに視線を向けているようだった。
その目は、わが軍の大将旗を見据えていた。

若武者が、顔を上げた。
私を、見つけたようだ。
まっしぐらに突き進んでくる。
「いけない!主君をお守りせよ!!」
餡梨が兵らに指示を出す。
「ご主君!あの男は危険です!お下がりください」
「う、うむ」

餡梨の兵らが、若武者を包み込む。
しかし若武者が、槍を一度振るうと、
たちまち数人の兵士が倒れた。
しかし、わが軍必死の包囲により、さすがにそれ以上は進めない。

「ジャーン ジャーン」
そのうちに、曹操軍の本隊から、退き鐘が打ち鳴らされた。
乱戦の中で、大将の曹彰の部隊がわが軍の攻撃を受け、
総崩れとなったようだ。
若武者も仕方なく、行く手に立ちふさがる
何人かの兵を蹴散らし、自軍へと馬を返した。

戦いは、とりあえず関を守りきったわが軍の勝利に終わった。
城へ引き上げる途中、私は紺碧空に尋ねた。
「新荘の隊にいた、あの赤い鎧の若者は誰だ?」
「さて……あの男は自分も初めて見ました」
紺碧空は思案顔で答えた。

戦から数日が経ったが、あの若武者の顔が、
私の頭から離れなかった。
あの男は、私をはっきり狙っていた。
私の顔を知っていたのだろうか。
恐怖…?いや違う、もっと特別なものを感じた…。

ところへ、幽壱が吉報をもって入ってきた。
「殿。上総介殿、紋次郎殿らが、安定を攻略しました」
「おお…!」
「敵将の張魯は西平へ逃げ込んだ模様です」
「そうか。彼らもやりおるわい」
於我が笑った。
「あとは、伏姫の守る西平と、馬騰の逃げ込んだ弘農を
 奪えば、馬騰も終わりですな」

翌日、わが軍は早速軍議を催した。

 

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